『夜明けの桟橋にて』
夜明けの桟橋にさやかな風が流れている。
輪郭が鮮明な朝でも、もしくは雲に隠れていても、
いつでも風は新鮮であり。
しかし夏でも、その風は冷たくもあり。
しばらくすると、運河に太陽がさらさらと滲みて、
その美しさときたら、敵わない。
もう敵わない。
芸術なんかじゃ、敵わない。
圧倒的なる美しきものに包まれるとき、人間はどう動くのでしょうか。
何思うこともなく
何願うこともなく
何欲すこともなく
そして私は水上バスに乗るのです。
向かうはムラノ島。
そこに私の工房、いや仕事場があるのです。
つまり私は、毎日水上バスで通う、労働者なのです。
いち労働者なのです。
そして夕方、疲れたからだを水上バスに運んでもらい、
再びこの桟橋に戻ってくる、
ただの労働者なのです。