TSUCHIDA YASUHIKO - 土田康彦

『5月の花』

今回の震災で亡くなられた方々に、心から哀悼の意を表したい。
僕の知人に東北大学の医者がいる。
彼はカンパンをかじりながら仮設テントの下で、
命を削りながら命を守っているらしい。
ある詩人が残した一編を思い出す。
『他人を幸せにするのは、香水を振りかけるようなものだ。
振りかけるとき、自分にも数滴はかかる』
こんな素敵な物事の解釈もある。
しかし今、仮設テントの彼を具体的に立体的に想像してみると、
凍える彼の頬に、確かに数滴かかっている。
しかしそれは血だった。
さらに、無情の春雪が彼の肩にたえまなく降りそそぐ。
これが現実。
僕は彼を誇りに思う。
いつしか世が落ち着いたなら、
彼に暖かいお茶でもいれてあげたい。
彼が何も話したくなければ、
沈黙の中に身を任せておけばいい。
明るいときに見えないものが暗闇では見えることもあるから。
そして僕は彼を誇りに思う。
しかしこんな状況下、
でも僕は偽善者といっしょになって、しょげたりしたくない。
だから連中に不謹慎と言われても構わない。
僕は今、こう想っています。
志半ばで散っていった同胞の命を、
闇に呑み込まれた知人の生を、
幸運にも生き残った僕たちの漲る生命の輝きによって照らしてあげたい。
3月の凍てつく風と、
4月の冷たい雨が、
5月の花を咲かせるのであれば、
僕たち日本人はもうしばらく、歩き続けなければなりません。
例えそれが険しい坂道でも。
何度でも不死鳥のごとく、僕たちは劇的に復興するのです。
諦めなければ、終わりはこないものです。
希望をもって、それぞれの天命に生きましょう。
僕もがんばります。
皆さんもがんばってください。

今夜も余震に揺れる彼を誇りに思いながら。

以上

いつも真心をもって

土田康彦

夢見月のヴェネチアにて 2011 3 16